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3月は別れのシーズンですね。
私がたまに勤務に行っている大学病院でも、多くの先生や病院職員の方が退職され、代わりに4月より新人の先生など、多くの職員が入られます。
3−4月は送別会や歓迎会など、お酒を飲む機会も多くなるでしょう。
お酒を多く飲む方は、飲まない方と比較して歯の喪失や歯周病は関係しているのでしょうか。
以前コーヒーが歯周病に与える影響について書きましたが、摂取物により、口腔内は多くの影響を受けます。
「コーヒーを飲むと歯周病になりやすい?」
アルコールを飲むと歯がなくなるか?
歯がないおじさんが、飲みかけの酒瓶を持って歩いている、漫画などでよくあるシーンです。
のんべいの方は歯がなくなりやすいイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。
60歳以上の患者を対象にした飲料物と歯の喪失についてのシステマティックレビュー(厳密な基準で選ばれた研究を集めて分析したもの)では、アルコール飲料と歯の喪失に関する5つの研究のうち3つで負の相関が認められ、逆に2つで有益な関係が認められました (Zupo R et al. 2021)。つまり、アルコールを飲むほど歯が無くなる傾向にあるという結果が3つ、アルコールを飲んでいる人ほど歯がなくなりにくいという結果が出た研究が2つあげられました。
また、非飲酒者、過去飲酒者、現在飲酒者の分類やアルコール摂取量の推定を考慮し、40歳以上の25,216名を生活習慣に関する質問紙により調査し、解析を行った研究では、少量の飲酒者が歯の喪失状況が良く(歯が残っている)、非飲酒者や多量の飲酒者では歯の喪失状況が悪い(歯がなくなりやすい)ことが示唆されました(実際は男女による差異がわずかにあり)(諏訪間ら 2023)。この結果をみると、アルコール飲料は必ずしも歯の喪失に悪影響を及ぼすわけではないということが示されています。
アルコール飲料と歯周病との関係
歯周病は歯を失う原因の約4割を占めており、歯周病の悪化は、様々な全身疾患へ影響を及ぼすことが報告されています。
飲酒は歯周病のリスクファクターにつながるとは歯周病学会のホームページや指針などでも記載されていますが、具体的な機序については書かれておらず、お酒を飲んだ後のブラッシング不足の傾向が、歯周病進行の一因となることなど記載されています。
過去の文献を見てみると、日本の製造業で働く労働者を対象とした年1回の健康診断を元に、歯周組織の健康状態と生活習慣との関連について検討した研究では、1日あたり60 g以上アルコールを日常的に摂取する被験者は、48 g以下のアルコール接種者と比較して、歯周病の悪化傾向を示しました (Shizukuishi S et al. 1998)。 この60 gは、ビールの500mLを3缶飲んだ場合に摂取される量で、毎日の摂取としては過剰な傾向にあります。他の研究においても、正常なアルコール飲料の摂取であれば問題ないが、過剰な摂取は歯周病が悪化する傾向にある事が示唆されています。
アルコールを過剰に摂取する者は、不規則に飲酒する者と比較し、日常生活や社会生活に支障をきたしやすいことや、不規則な食生活が認められるなど、生活習慣が悪化しやすくなる恐れがあります。
他にも、アルコール摂取頻度が高い者は、歯周病原細菌をはじめとするいくつかの細菌の保有レベルが高いという研究もあり、細菌へなんらかの影響を与えていることも考えられます(Signoretto C et al. 2010)。
歯周病治療
これまで見てきた結果からは、アルコール飲料が必ずしも悪影響を与えるとはいえませんでした。
エタノールは、マウスウォッシュ(洗口剤)にも含まれているので、少量であれば問題ないことが研究で明らかになっています。
しかし、過剰なアルコール飲料の摂取は悪影響を与えることが予想されるため、あまり飲み過ぎず、ほどほどの飲酒がおすすめです。
また、アルコール飲料は口腔がんなどのリスク因子となることも報告されているため、普段飲み過ぎている方は、より一層口腔内に注意を払っていただければと思います。
口腔内で気になる場所がある場合は早めの歯科受診をお勧めします。
(管理者) 鈴木瑛一 歯科鈴木医院 副院長 日本歯周病学会専門医