歯周病の人はインプラント治療ができない?

4月に入り、やっと暖かくなってきました。

当院の近くの城北公園では、桜が満開で、日曜日にはお花見をしている方がたくさんいて賑わっていました。

今回のテーマは、「歯周病の患者さんはインプラント治療ができるのかどうか」です。

当院は歯周病やインプラント治療を専門としているため、歯周病に罹患している方や、歯周病によって歯がなくなってしまった多くの患者さんがいらっしゃいますが、歯がなくなった場所に対してインプラント治療を希望するかたもいます。

歯が抜けてしまう原因の約4割は歯周病ですから、インプラント治療を希望された場所の何割かは歯周病が原因で歯がなくなっています。

患者さんの中にも、インプラント治療は歯周病があるかたにはできないということを聞いたことがあったり、インターネットで調べられたりして、ご質問される方は多くいらっしゃいます。

この歯周病とインプラントの関係は皆さん興味があるテーマだと思います。

 

結論から言うと、歯周病はインプラント治療後の維持や予後に影響を与える可能性が高いです。

しかし、治療をしっかりと行い、メインテナンスに来院することでそのリスクを大幅に減らすことができます。

 

 

 

 

歯周病とインプラント周囲炎(インプラントに起きる炎症)

歯周病は成人の約8割が罹患している世界最大の感染性疾患です。

歯周炎の原因はそのほとんどが歯周病原細菌です。歯と歯茎の境目の清掃が行き届かないでいると、そこに多くの細菌(プラーク・歯石)が停滞し歯茎が「炎症」によって赤くなったり、腫れたりします。そして、進行すると歯と歯肉の境目が深くなり(歯周ポケットの形成)、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動くようになり、最後は抜歯をしなければいけなくなってしまいます。

 

インプラント周囲を磨かないで放置した場合、歯周病原細菌が天然の歯と同じようにインプラント周囲へ感染し、インプラント周りの歯周組織(歯茎や骨)に炎症を起こします。これを、インプラント周囲粘膜炎/インプラント周囲炎といいます。

インプラント周囲炎がおきると、通常の歯周病と同じようにインプラント周囲へ深い溝(ポケット)を作っていきます。そしてインプラントを支えている骨に影響を及ぼし、インプラントの喪失へつながっていきます。

 

 

 

インプラントは歯周病(インプラント周囲炎)になりやすい?

インプラントは、天然歯と比較して炎症が進行しやすい、ということを聞いたことがある人がいるかもしれません。インプラントの炎症が進行しやすいのは、それぞれの周りにある組織の違いによるためです。

 天然歯の周りには、コラーゲン線維が存在し、歯肉や骨と接着しています。これらのコラーゲン繊維は歯の表面にしっかりと絡みつき、口の中の細菌が、身体の中に侵入するのを防いでいます。それに対して、インプラントの周囲にはこのようなバリケードがなく、歯肉の中のコラーゲン繊維の走行も違うため、細菌感染が起きやすいとされています。

また、歯周組織では細菌性によって引き起こされる歯周炎は、初期段階では上部に限局していますが、インプラント周囲の場合では、周りの骨にまで及ぶとの報告もされています。つまり、インプラントの方が歯周組織の炎症の進行が早いことが示唆されています (Ericsson I et al. 1992)

 

インプラントの維持には歯周病の歴史よりメインテナンス

では、実際に歯周病にかかったことがある人のインプラントへの影響はあるのでしょうか。

過去の文献では、関係しているという報告と関係していないという報告どちらも存在します。

インプラント周囲炎のリスク因子についての論文をまとめ、評価した2018年のレビュー論文では、喫煙や糖尿病などと並び、歯周炎の既往歴または存在が、インプラント周囲炎のリスク因子として同定されています (H Dreyer 2018)。

つまり、歯周病にかかっている(またはかかっていた)患者さんは、インプラント治療においてリスクになり得るとのことです。また、歯周病患者さんに対し、インプラント治療を行い、その後20年という長期的な経過をみた最近の研究 (Roccuzzo A et al. 2022)では、インプラント成功率(炎症や骨の吸収がおきないか)には歯周病の履歴は関係していた一方で、インプラントの生存率(抜けるか抜けないか)には、歯周病の治療歴は関係ないという結果が示されました。

さらに、20年間におけるインプラントの生存率は、メインテナンスを継続している者は継続していない者と比較して、インプラント生存率が約8倍高い結果となりました。すなわち、長期的に見ると、メインテナンスを継続的に行っていない場合は、歯周炎の既往に関係なく、インプラント生存率が低くなるということが明らかになりました。

インプラント治療を行った後は、かならず定期的で継続したメインテナンスを行う事が重要なんですね。

 

また、歯周病では多くの骨がなくなってしまいます。その場合は、骨を大きく増やしたりする必要があるため、通常より大変な治療になる可能性があります。このことからも、歯周病の治療は早めに行っていくことが重要です。

 

さらに、インプラント治療においては歯周炎の歴史だけでなく、全身的な疾患、特に糖尿病や骨粗鬆症などによっても影響があります。これらの全身疾患をもつ患者さんには慎重にインプラント治療を行う必要があります。

 

本院では、歯周病専門医が所属しており、歯周病の治療を行った後、安心してインプラント治療が受けられます。

 

歯周病があったり、インプラント治療について心配なかたは、お気軽にご相談ください。

 

(管理者) 鈴木瑛一 歯科鈴木医院 副院長 日本歯周病学会専門医

 

 

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